東京高等裁判所 昭和32年(う)1669号 判決
被告人 佐々木努
〔抄 録〕
同論旨第二点について。
記録を調査すると原審第一回公判期日において被告人の被告事件に対する陳述が終つた後、検察官は余罪取調中であるという理由で公判期日の続行を求めたこと、第二回公判期日において検察官はなお余罪取調中であるけれども一応本件公訴事実について審理を求めたので直ちに証拠調手続に入ることとし、同期日において書証の提出などがあり、次いで証人一人を臨床尋問した上、第三回公判期日においては証人四名の尋問、被告人の供述調書の提出等があつて審理を終結したが、遂に追起訴はなされなかつたことが認められる。しかして刑事訴訟に関する法令には被告人に余罪がある場合に検察官がその取り調べのため公判期日の続行を求めることを禁ずる旨の規定は存在しないし、また所論の如く検察官は起訴にかかる事件の証拠を即時提出しなければならないと定めた規定も存在しない。所論の刑事訴訟法第二百九十二条は証拠調手続は同法第二百九十一条所定のいわゆる冒頭手続が終つた後にこれを行う旨を明らかにしたにとどまり検察官は起訴状朗読に接着して即時に証拠を提出しなければならない旨を定めたものでないことは、同法条の規定自体に照らして明白である。その他記録に徴するも、所論の如く原審公判立会の検察官に、裁判官に事件について偏見又は予断を生ぜしめる企図により不法な処置をなしたとか、或は原審裁判所の訴訟手続に、被告人の利益を害するような違法な処分をしたと疑わしめるような形跡を認めることはできない。論旨はすべて理由がない。
(三宅 河原 下関)